ある高校の校長先生の文章が心に残りました。
日雇い労働者が集まる街・大阪府釜ヶ崎。貧困などの問題が凝縮する地区とされる、その地にある大阪府立西成高校。そこで10年以上も教頭・校長をされたのが山田勝治先生です。
生徒の生活実態に切り込んで、学びやすい環境整備に尽力された結果、かつて20パーセント近かった中退率が、なんと1ケタまで下がったのだそうです。
「中退は将来の引きこもりにつながりかねない。1人でも減らしたい」と。
そこには、未だ学歴社会である日本では、中学3年時の成績で高校が決まり、その後のキャリアや人生もあらかた定まってしまう実態があります。
試行錯誤が続く現場について語られる中には、正直、私の想像を絶する世界があると感じました。
そもそも西成高校は、中学まで満足な学校生活を送れなかった子達が通い、「人生をやり直す」ところ。山田先生が目の当たりにする子供たちの困難には様々な理由があるのです。
満足に食事もとれない貧困に陥っている子、親からの虐待にあっている子、学習するための言語が定かでない外国ルーツの子、性的少数者で生きづらさを抱える子…。
山田先生の進めた改革とは、生徒が通いやすいように、学校の制度や仕組みを柔軟にするもの。遅刻や授業中の居眠りを減らすために授業の開始時間を1時間遅らせたり、下校が遅くならないように授業数を減らし、そのぶん夏休みを短くしたのです。
生徒たちの7割がアルバイトをしているという実態。それは好きなことに使うお金ではなく、家計に入れる、修学旅行の旅費を自分で積み立てる、教科書や学用品を買うといった理由が多いそうです。
青春時代、親のもとで自由が許される時代のはずが、まったくそうではない現実。
その中で、たくましくと言っていいものかわかりませんが、生きている人たちがいるという事実。
山田先生がことあるごとに生徒に呼びかけることは、
「仲間を見下すな、自分をあきらめるな」という言葉。
それは「仲間をリスペクトすると同時に、自分自身をリスペクトする」こと。
そこから生徒も教員も学び、成長していけると信じているから。
様々なことが絡み合って、一筋縄では解決できないことが日々、押し寄せるのだろうなと感じました。 直接的に何もできないけれど、そういう実態があるということを知っておくこと。
そして、山田先生の言う「カラフルな生徒がたくさんいることが強み」という言葉に、ただただすごいと思いました。