60代の女性、4世代で同居されるご家族のために、分刻みのスケジュールをこなしながら飛び回っておられる方の言葉でした。
「あのね、いいこと聞いたのよ。ボケは神様からのご褒美って」…実のお母さまがホームに入っておられて、ボケてしまっている。
だからこそ「それを聞いて本当に救われたの。本当にがんばった人だから、もうなにも考えなくていいよ~って、そういうことだって言われてね」。
私は、祖母がそうでした。当時「認知症」なんていう言葉がまだなく「老人性痴呆症」と言われたり、次第にアルツハイマー病と言われるようになった頃でした。
当時小学生だった私は、祖父母と一緒に住んでいました。祖母が明らかにおかしくなり、孫の私に向かって「〇〇してくださいよ~」と駄々をこねたり、ゴミやほこりを集めて口に入れたりするようになり、やがてオムツをしなければならず、家の中を徘徊するようになりました。母は本当に、大変だったと思います。
その時代を思うと、子供ごころに葛藤していた記憶がよみがえります。
家の中をぐるぐる歩き回る祖母に対して、時に苛立ちながら「もう!おばぁちゃん!!」とかって強く言ってしまったり。
あるいは「そっちじゃないでしょ~ほらほら」って優しく手を引く瞬間も。
どちらにせよ「私はおばぁちゃんに失礼なことをしている」という罪悪感のような、なんとも言えない気持ちになっていました。
でもこうして今となってみると、そういう気持ちが貴重なことだったなぁと思います。生きていくなかで「色んな思いしたほうがいい」と思うからです。心のひだが細やかになる気がするから。
祖母は、芸術家肌の人でした。特に染め物の腕前は素晴らしく、庭の端から端に布を張り、そこに筆で絵を描いている様子を覚えています。
九州からお嫁に来て、亭主関白な祖父のもとで男の子を4人、育てあげた日々…。本当にがんばった祖母に与えられた運命、それがボケという「神様からのご褒美」だったのだと。
この言葉を伝えたら、救われる人は多いように思いました。