もと陸上選手の為末大さんのエッセイ集「走りながら考える」を読んでいます。そのおかげで、かつて聞いた言葉の意味が腑に落ちました。
かつて聞いた言葉というのは、高校3年の時。卒業が間近に迫っており、どの授業でも先生達が最後に「贈る言葉」のような話をしてくれる、そんな時間が続いていました。
ある先生が言ったのです。
「あなた達全員に、何の苦労もなく幸せでいてほしいと思うけれど、でもきっと、そうはならない…」というようなことを。
「夢を持って」とか、「本気でやれば今からなんでもできるよ!」とか、そういう類のなんとなくいい話をする先生が多かった中で、その言葉には違和感を感じました。
けっこう衝撃で、そのあとに続いた話はおぼえていなくて、そこだけが残っていたのです。
でも、為末さんのエッセイの中に、挫折について書かれた箇所があり、それを読んで納得したのでした。
『どんなに注意深く真面目に生きていても、不幸は降りかかる。人生の本質はたぶんそこから本番で、それでも生きていけるかどうか。』
そして…
『挫折はないよりもあったほうがいい。晩年で経験するよりも、早ければ早いほうがいい』と。
これを読んで、その先生もきっとこういうことが伝えたかったのだろうな、と思いました。間違っても生徒の不幸を願ったわけではなくて(笑)。
あれから30年近く経つ今となってようやく、突然に降りかかる不幸や、じわじわと自分を苦しめる感情にどうにもならなくなる時があってこそ、いいのだと思えます。その渦中になればこんなふうに言い切れないでしょうが。
浮き沈みは当然あるもの。でもその想定があるかないかで、全然ちがってくると思うのです。今ではその先生の言葉に、とても優しさを感じられます。