あらがえぬ運命を翔る(かける)・・・。
バイオリニスト、諏訪内晶子さん。久しぶりにその姿を目にしました。
そしてびっくり。まるで別人のように、やわらかで、それでいて強さを感じさせる笑顔でした。
諏訪内さんというと、私は皇太子妃候補として注目されたとき、その存在を知りました。でもその時は、もっとただただ、すっとしたきれいな人。
でも、「美人だなぁ」と思っただけで、そこに深みは感じられませんでした。
しかし今回、その表情を見て、驚きました。
こんなにも人は変わるのだ!と思うほどでした。
18歳で世界屈指の音楽コンクールを制し、一躍、時の人に。
20代で早くも出された自伝『バイオリンと翔る』では、驚くほどに強じんな意志と、痛々しいほどのストイックさが伝わってきます。
しかし、若くして注目されたがゆえの苦難が、後にやってくるのです。
30代は「巻き込まれなくていいことに、巻き込まれ続けた、という感じ」。
そんな日々をもたらしたのは、「結局、自分でした」。
「もう少し普通の人生経験があれば避けられた」と、諏訪内さんは語ります。
「10代の私の生活は、やはり不自然で、社会性ゼロ。
遊ぶことはほとんどなく、牛乳1本がいくらなのかも知らなかった」。
すべてを削って、ただただ、バイオリンに向かう毎日。想像を絶します。
「望まぬことに巻き込まれたからこそ、見えるものが変わってきた。
ままならない人生だからこそ、うまく言葉にならない感情が心に積もる。
それを表現するのが、音楽です。」
逆らえない運命は、ある。・・・それは、諦念に似た境地。
バイオリニストの中でもずば抜けて華やかなキャリア、特別な人生。
それでも、思うようにならない「そこ」は、同じなのではないでしょうか。
私は中学3年の時、「どうにもならないことに巻き込まれて、人生がガタガタと音を立てて変わってゆく」ような経験をしました。
父が破産。家を失い、その後は色んなことがありました。
でも、だから良かったのだと、今では思います。
こう思えることが本当に幸せだと思うし、これは決して、私だけの力ではありません。
ただ思うのは、「巻き込まれること」はある。
「避けられないこと」は起きる。
その時を経て、何をつかむか。何を顔に刻むのか。
今、諏訪内晶子さんは40代。そこまできて至った深み。
それは明らかに、演奏にも余裕をもたらすほどになったそうです。
「今は心身ともに、充実しています」と、明るい笑顔を見せられるほどに。
正直、以前にも増して美しい女性だなと感じました。