「刺しこ」…娘が小学生の時、家庭科で習ってきました。
色とりどりの糸で、ガーゼ布にはじめて「ちくちく」縫って。
その「刺しこ」を題材にした、こんなタイトルの小説があるとは。
しかも内容が深いのです。
正確には「南部菱刺し(なんぶひしさし)」というのですね。青森県の太平洋側の南部地方に伝わる刺し子技法のことです。まず南部せんべいが頭によぎりますが、その辺りが発祥なのだとか。
横長の菱形が連なったようになる幾何学模様が有名ですが、その「菱刺し」、進んだところが目に見える。
失敗したらほどきつつ戻ってやり直せる、その地道な作業がやがてひとつの模様になる…。
その「ちくちく」の過程が、失敗しても再チャレンジし、少しずつ成長していく人生の過程になぞって、描かれていくのです。
つらい時の一針、嬉しい時の一針で人生ができている。
そう思うと、単調な作業だからこそ、そこに思いを込められるのですよね。
一針、一針、縫いながら、自分と向き合って…登場人物たちの人生が、とつとつと迫ってくるように感じました。
いいときも、ダメなときも、黙々とやれるのっていいですね。