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停電に思う

 9月8日深夜に関東地方を直撃した台風15号。特に千葉県にもたらされた被害は甚大で、今もなお停電している地域が・・・。これだけ電気に支配されている日常だというのに、その軸が機能しないとは、どれほど不便で不自由な生活でしょう。想像を絶します。
千葉はそうはいっても広く、今日は船橋に行ってきました。
東武デパートの5階の文房具売り場。折り紙のコーナーに、素敵な女性がたたずんでおられました。その後ろ姿に吸い寄せられるように、近づいてしまいました。大胆で、それでいて女性らしいショートヘアがとても素敵だったので。
いつからか、洋服やバッグもいいけれども、それよりも髪型や靴に目がいくようになってきました。あとはお肌の状態とか。
今日の私はちょっと勢いがあり、思い切ってお声をかけてみました。
驚いて振り返られたその方は、とても優しいお顔立ちの美人さんでした。聞けば、ご自宅近くの美容室に30年、通い続けておられるとか。それだけおまかせできる美容室があるって、うらやましい限りです。
そのうち話は広がり、思いがけない告白を受けました。
「実は私ね、難病なんですよ。言ってもおわかりにならないくらいの、とても珍しい病気とね、ずっと付き合っているの。」と。
正直、返す言葉がありませんでした。

「あなたが褒めてくださったヘアスタイルも、たくさん抜けてしまった毛が、どうにか生えてきて、それを対処するために先生が考えて下さった策なのよ」と、笑顔。
折り紙を見ていらしたのは、停電で困っておられるご友人にお見舞いを送る中に、
「折りづるをね、ハートの形に組むの、それを手紙に添えたくてね」と。
そんな素敵なお心遣い、受け取った方はさぞ、喜ばれることでしょう。

「体調がいつもいいわけではないし、何をするにも長い時間はできないので、なんでも少しずつね。でもかえって、今しかないって思うから、はかどるのよね」
「そう私、今を生きているの。ちょっといいでしょ。(笑)」

どうしたらこれほど朗らかに、現実を受け止められるのか。
素敵だなと思ったペンダントも、「人工呼吸器を入れたあとの穴を隠すため」とおっしゃる。ふわりとおしゃれなチュニックも「変な話、失禁してしまうことがあるので、下はもう絶対パンツスタイル。こういうふわっとしたものを着れば、少しは可愛らしく見えるかなと思ってね」と。

「でもね、悪いことばかりではないのよ。痛みと上手に付き合いさえすれば。
大病するとね、感覚が優しくなれるの。あなた、春の赤と秋の赤、お花の色みが全く違うのって、ご存知?」と。
知るはずもない私に、ひとつひとつ丁寧にお話くださるのでした。

お名前ぐらい・・・ちょっとお茶でもと思ってしまったのですが、そこはスマートに
「こんな世の中ですからね、お互い無難にまいりましょう。
私はもう、静かに暮らすと決めたので、あなたとのお時間はここまでにさせてくださいな。でも、とても嬉しくて楽しかったです。ありがとう」

最後に「お元気で」というのは酷な気がして、いい言葉が見つからずに、私はただ「ありがとうございました」を繰り返すばかりでした。
口には出せなかったけれど、お元気でと願いながら。

時に、不思議な出会いがあるものですね。
千葉の停電、1日も早く解消されますように。
心の中で、鶴を折り願う気持ちです。

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