子どもの頃に、母が何気なく言ったこと…道に、手袋が片方だけ落ちているのを見て。 「あ~、手袋って片方じゃほんとに困るのよね…」。
確かそんな意味のことだったと思います。 それが妙に忘れられなくて、今も見るたびに思い出します。冬になると必ず、片方だけ落ちて、どうにもならなくなった手袋を目にしますよね。
「手袋」で思い出した絵本。 いりやまさとしさんの『あかいてぶくろ』。
片方の「てぶくろ」とはぐれてしまった「あかいてぶくろ」は、クリスマスでにぎわう街を、片方を探してさまよい歩く…というお話です。
「きのうまで、あかいてぶくろは、もう かたほうの てぶくろと いっしょに、もちぬしの てを あたためていたのです。これからも ただ ずっと、そんな ひが つづくとしんじていました」
作者のいりやまさんは、仕事で知り合った編集者の女性と結婚します。その奥様にがんが見つかり、やがて2年後に転移、そして亡くなるという悲しみを追っていらっしゃいます。
「奥さんと明日からずっと会えなくなるなんて、受け入れられませんでした。それでも世の中は、いつもと同じように回っている」。
…その感情と向き合い、整理するために描かれた絵本だそうです。
いりやまさんの思いは続きます。
「本当になくすまでは、そばにいる人がいなくなるなんて思いもしない。何気ない日々の暮らしが一番貴重です。どうか、目の前にいる人を大切にしてほしい。」
それだけの悲しみを知っている他人だからこそ、描けるもの。人の心に寄り添える絵本だと思います。