おすすめの本

小説の中のひと言 ~弱さ~

 引き続き、はまって読んでいる西加奈子さん。作品がたくさんあります。今、読んでいるのは『おまじない』という2018年に発行された短編集です。

本当に色々な想定の、違ったテイストのものを描ける作家さんなんだなぁと、すごいなぁと思います。

 ひとつひとつ読んでいくと、どこかにタイトル『おまじない』に関連する何かがあって。主人公たちがそれぞれに、見出していくのです。自分なりの結論や、割り切りや、腑に落ちる瞬間を。それがとてもいいなぁと思います。

 6つ目の「マタニティ」を読み進めていた時でした。飛び込んできたひと言。

「自分の弱さを認めたら、逆に強くなれたんです。」

そう!そうなんですよね!

 主人公は予定外の妊娠に戸惑い、産婦人科で偶然に見たテレビのワイドショーで、この言葉を聞きます。

言ったのは、かつてスターサッカー選手として輝いていたのに、今は見る影すらなくなったとされる人物。そのみじめな姿から、しかし臆さず発せられる言葉に、主人公は背中を押されるのです。

「自分が弱い人間なんだってはっきり自覚したら、ぼく、強がってたときよりなんていうか、生きやすくなったんです。」

「自分の弱さを認めたら、逆に強くなれたんです。」

 受け入れたくない、見たくない自分。そこをあえて、ちゃんととらえる。そうすると、自分を嫌いになるどころか、逆なのです。いとおしさに近い感情が湧いてくる。そうやって自分を「よし、よし」ってできるのは、自分だけなのですよね。

 小説の中で、こんなにも自然に、それでいて的確な言葉に出会ったのは初めてで、嬉しくなりました。

幸福度を測る前のページ

藤井四冠と今年の一文字次のページ

PAGE TOP